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松山地方裁判所 昭和44年(行ウ)19号 判決

松山市枝松町六丁目六一番地

原告

中村勲

右訴訟代理人弁護士

長田一

佐伯善男

松山市本町一丁目三番地四

被告

松山税務署長

中村治郎

右指定代理人

河村幸登

中村弘

大歯泰文

卓正

曾根田一雄

萩原義照

真鍋一市

土居兎志雄

横山正之

西條義次

主文

1  原告の訴をいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

当事者双方の求めた裁判、事実上、法律上の主張、認否は、別紙準備手続結果の要約記載のとおりである。

証拠として、原告代理人は、甲第一号証を提出し、証人森元寛、同中村富三郎、同八木正孝の各証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙第五、第六号証、第七号証の一、二、第一一号証の一、第一二、第一三号証、第一五号証の各成立は不知、第一六号証の原本の存在は認めるが、写の成立は不知、その余の乙号各証(第三号証の一、二、第四号証、第一一号証の二、三は原本の存在とその成立)の成立は認めると述べ、被告指定代理人は、乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四ないし第六号証、第七号証の一、二、第八ないし第一〇号証、第一一号証のないし三、第一二ないし第一六号証を提出し、証人神野一正、同八木正孝の各証言を援用し、甲第一号証の成立は認めると述べた。

理由

一、 被告が原告に対し昭和四三年七月一五日付で、昭和三八年ないし昭和四〇年分の所得税にかかる課税所得金額等につき請求の趣旨第1項(一)ないし(三)記載のとおり課税処分をなし、これをそのころ原告に通知したこと。原告は右各課税処分を不服として昭和四三年八月一三日被告に対し異議申立をしたが、いずれも同年一〇月八日これを棄却したので、さらに同年一〇月二一日高松国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は昭和四四年五月二四日付で昭和三八年分および昭和三九年分についてはこれを棄却し、同月二六日付で昭和四〇年分について一部取消の裁決をし、右各裁決書謄本を同年六月六日原告宅に送達したことは、当事者間に争いがない。

二、 ところで、原告は、右各裁決書謄本の送達を受領したのは、同居の義父中村富三郎(当時七七才)であつて原告ではなく、義父は右各裁決書謄本を受領するやこれを自宅の机のひき出しにしまいこんだまま忘却してしまい、原告に右送達を知らせてくれなかつたので、原告は同年一〇月初めころまで右各裁決の存在を知らなかつた旨主張し、被告は右送達の日の六月六日ころか遅くとも同年八月二〇日までには本件各裁決の存在を知つていたと主張して、これを争うので、判断する。

証人神野一正の証言とこれによつて成立の認められる乙第一五号証、および証人森元寛の証言(ただし後記措信しない部分を除く)を総合すると、税理士森元寛は原告から依頼を受けて本件各異議申立および各審査請求の手続を代行しており、原告から審査請求が棄却されたときは訴訟にもつてゆくからその手続をとつてほしい旨前もつて依頼されていたこと。そのため同税理士は本件各裁決書謄本が原告方に送達されるのを待つていたが、昭和四四年七、八月ころ(八月一九日より前)になつて同人がかつて税務署に勤務していたころの同僚で当時高松国税局協議団松山支部の協議団員であつた八木正孝に原告の本件各裁決の有無について尋ねた際、同人からもうすでに本件各裁決はあり審査請求は棄却になつておるはずである旨聞いたこと。そして同年八月一九日になつて、高松国税局徴収部所属の国税徴収官神野一正は、原告の本件各課税処分にかかる滞納処分に関する調査等の目的で原告と面会したい旨を、原告が代表者している中村製材有限会社の事務所に電話連絡したこと。そのためその翌日の八月二〇日午前森元寛税理士は松山税務署に右神野一正徴収官を訪れ、原告の本件各審査請求について過日棄却裁決があつたが、右裁決は納得がいかないので同年一一月ころ訴訟にもつてゆく予定である旨伝えたこと。そして原告も同日神野一正徴収官が中村製材の事務所に来訪した際同人に対し、本件各審査裁決については森元寛税理士と同趣旨のことを伝えており、また滞納処分関係については、本件各課税処分にかかる滞納処分として松山市三番町一丁目九番地一三所在の二階建店舗兼居宅が差押えられているが、これは差押前すでに第三者に売却済(未登記)であるゆえ、右物件評価額に見合う分の税金を納付するから右物件に対する差押処分を解除してほしい旨を申立てていること。森元寛税理士は原告とは親戚節にあたり、事務所は松山税務署裏門近くで、同税務署にはよく出入りしていたこと。本件各裁決書謄本の送達は松山税務署長の手を通じて行われたが、同税理士は一般に高松国税局長の裁決にかかる裁決書謄本の送達は必ず地元税務署長を通して送達される仕組になつていることには精通していたこと。同税理士はもと税務職員であつて税務関係には詳しいが、課税処分取消請求訴訟の訴状を起案したのは本件のほか一件だけであり、その訴訟関係についての知識はそれほど詳しいものではなかつたこと。同税理士が起案した本件訴状記載の請求原因においては、本件課税処分にかかる所得の存在しないこと、より少額なことはるる述べているが、異議申立や審査請求等の手続上の要件については全く触れられておらず右の点の配慮がなされていないこと(この点は本件記録上明らかである)。本件出訴遅れたのは、出訴前その訴状原案を塩崎潤代議士に審査してもらうため同人に長く預けていたことも原因していることなどの事実が認められ右認定に反しもしくはその趣旨にそわない証人森元寛、同中村富三郎の各証言および原告本人尋問の結果は前掲証拠に照したやすく措信することができず、他に右認定を左右するにたりる証拠はない。

右認定の各事実を総合すれば、原告は遅くとも昭和四四年八月二〇日ころには本件各裁決の存在を現実に了知したものと認めるのが相当であつて、これを否定する原告の主張ば採用することができない。

しかるところ、原告の本件出訴の日が昭和四四年一二月三日であることは、本件記録上明らかであるから、原告の本件各訴は、三か月の出訴期間経過後になされたものというほかはない。

三、 原告は、被告が本件出訴後である昭和四五年九月三日原告の昭和四〇年分所得税にかかる前記課税処分(昭和四三年七月一五日付)についてその裁決書謄本に添付した計算書に誤びゆうがあつたとの理由で、別紙準備手続結果の要約添付の別紙三表記載のとおり課税所得金額および過少申告加算税を減額更正する処分をなし、その更正通知書にはその決定に対し不服であれば一か月以内に異議申立または審査請求により争うことができる旨通知しているから、この時点において新たな更正処分が行われたとみるべきであり、かつ原告はすでに更正前の決定に対して訴訟上争つていることでもあるから、新たに異議申立または審査請求をするまでもなく、同年分にかかる本件訴の出訴期間を遵守していることに旨主張するので、判断する。

成立に争いのない甲第一号証によれば、原告の右主張事実を認めることができるが、右昭和四五年九月三日付更正処分は前記審査裁決にかかる課税計算の過程に誤びゆうがあつたものとしてその一部を取消し減額したものであるから、現に効力を維持している処分は右一部取消後の昭和四三年七月一五日付更正処分であつて、これに対し右のように昭和四五年九月三日付減額更正処分がなされたからといつて、右減額更正処分の時点から昭和四三年七月一五日付更正処分の取消を求める本件訴の出訴期間が進行すると解すべきいわれはなく、この理はたとえ右のように減額更正処分通知書に不服申立をすることができる旨の通知をなしていても異なるところはないというべきである。

よつて、これと見解を異にする原告の主張は採用することができない。

四  以上の次第で、原告の本件訴はいずれも出訴期間経過後に提起された不適法なものであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条および民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水地巌 裁判官 梶本俊明 裁判官 梶村太郎)

昭和四四年(行ウ)第一九号

準備手続結果の要約

原告 中村勲

被告 松山税務署長

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1 被告が昭和四三年七月一五日付で原告に対してなした

(一) 原告の昭和三八年分所得税の課税所得金額六五七万八、〇〇〇円とする更正処分のうち金三九七万八、七〇〇円を超える部分および重加算税金三五万九、一〇〇円とする賦課決定処分

(二) 原告の昭和三九年度分所得税の課税所得金額九三四万四、〇〇〇円とする更正処分のうち金六六五万三、〇〇〇円を超える部分および過少申告加算税一七万六、三〇〇円とする賦課決定処分のうち一〇万九、〇〇〇円を超える部分

(三) 原告の昭和四〇年度分所得税の課税所得金額一、二八九万八、〇〇〇円とする更正処分および過少申告加算税二八万五、八〇〇円とする賦課処分につき、高松国税局長の昭和四四年五月三〇日付裁決並びに被告の昭和四五年九月三日付更正処分により一部取消された後なお効力を維持する課税所得金額七七〇万一、〇〇〇円のうち金五九万九、〇〇〇円を越える部分ならびに過少申告加算税一四万八、七〇〇円のうち二、九〇〇円を超える部分はいすれもこれらを取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

1 (本案前の答弁)

本件訴をいすれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

2、(請求の趣旨に対する答弁)

本件請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

〈省略〉

別紙一 昭和三九年分所得税計算対比表

〈省略〉

別紙二 昭和三九年分の長期譲渡所得

〈省略〉

別紙三 昭和四〇年分所得税計算対比表

〈省略〉

別紙四

〈省略〉

別紙五 譲渡経費明細(昭和四〇年分短期譲渡所得の経費)

〈省略〉

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